国際交流

2024年度 海外教育実地研究活動日誌(カナダ)

海外教育実地研究 現地報告【その1】

海外教育実地研究の参加メンバーは無事トロントへ到着しました。
全員元気に入国を果たし、研修の第一歩を踏み出しました。しかし、到着初日から過去20年で最大級の豪雪に見舞われるという、想定外の幕開けとなりました。

現地では16時間で約55cmもの積雪が記録され、公共交通機関はほぼ麻痺状態に。
滑走路の除雪作業が追いつかず、飛行機の着陸はできたものの、機内で約2時間の待機を余儀なくされました。そのため、入国手続きが完了したのは23時頃となり、その時点で外は一面の銀世界。冷たい風が吹き荒れる中、移動手段を確保する必要がありました。
例年であれば、空港から市内へは電車やバスでスムーズに移動できるはずでしたが、この日は現地コーディネーターも交通機関の麻痺により空港へ迎えに来ることができませんでした。親和の研修を担当して以来、空港に迎えに行けなかったのは初めてのことだとのこと。交通網が完全にストップしていたため、唯一の移動手段はタクシーのみ。しかし、同じように足止めされた多くの旅行者がタクシーを求め、空港のタクシー乗り場には長蛇の列ができていました。
我々もその列に並び、寒さに震えながら順番を待ちました。
そしてようやくタクシーに乗り込めたのは午前1時過ぎ。ホテルに到着したのは午前2時20分、チェックインを終え、各自の部屋に入れたのは午前3時を回った頃でした。
長旅の疲れに加え、予想外の試練が重なり、トロント滞在は波乱のスタートとなりました。

しかし、翌日はカナダの祝日「ファミリーデー」。
この日はカナダの人々が家族とゆっくり過ごす特別な日であり、参加者にとっても、慌ただしい到着の翌日に少し息を整える良い機会となりました。
全員で雪深い街を歩きながら、今後の生活に必要な食料品や日用品を購入できるスーパーや、食事ができるレストランの場所を確認しました。
雪に埋もれながらも、トロントの美しい街並みと、雪景色に包まれた異国の雰囲気を味わうことができ、貴重な経験となりました。

このような予想外の出来事から始まった今回の研修ですが、これからの日々を通して、多くの学びと経験を積んでいけるよう、充実した時間を全員で過ごしてまいります。

海外教育実地研究 現地報告【その2】

2025年2月18日・19日の2日間、Wilkinson Public Schoolを訪問しました。

初日は、学校ツアーに参加し、図書館やランチルームなどの施設を見学しながら、日本の学校との違いを感じる場面が多くありました。
幼稚園についての説明を受けた後、園児たちの制作活動に参加。絵を描く、ブロックを組み立てるなど、教室内で多様な表現活動が行われている様子を間近で見ることができました。
続いて、英語の発音の授業を見学。母音と子音の違いを詳しく学ぶ授業は、日本の中学校の英語教育とは異なるアプローチであり、興味深いものでした。

午後は、園児たちとアウトドアエデュケーションに参加。
グループごとに協力して雪山を作る活動を行い、子どもたちと交流を深めることができました。雪をかけ合う姿には笑顔があふれ、寒さも忘れるほど楽しい時間となりました。

2日目は、高学年の児童と一緒に新聞紙や方眼紙を使った「兜」の制作に挑戦しました。
英語で説明することに不安もありましたが、思い切って伝えてみると、子どもたちが興味を持ち、積極的に会話を広げてくれました。折り紙の手順を細かく説明するのは難しかったものの、熱心に取り組む姿にやりがいを感じ、制作は無事成功。Wilkinson Public Schoolの児童たちと交流を深める貴重な機会となりました。

この訪問を通じて、教育の違いや子どもたちの学びに対する姿勢を実際に感じることができ、大変有意義な経験となりました。

海外教育実地研究 現地報告【その3】

2025年2月20日、実地研究2校目として訪問したのは『Bloorview School』です。

こちらは、病院に併設され、障害を持つ子どもたちがリハビリを行うための公立学校です。この学校では『IET』と『HCC』という2つのプログラムが運営されており、
・ IET: 4歳から小学校1年生までの子どもたちが自宅から通学するプログラム
・ HCC: 4歳から19歳までの子どもたちが併設の病院から通学するプログラム
となっています。
「4歳から小学校1年生までしか在籍できないのでは?」と疑問に思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、年齢制限の理由は「障害があるからといって特別な施設に留まることを良しとせず、子ども自身や保護者が必要な支援を理解し伝えるとともに、地域の方々にもそのニーズを理解してもらうため」であるそうです。

そのため、学校の教職員だけでなく、企業関係者や地域の子どもたち、実習生が学校を訪れ、またBloorviewの先生が他の学校で講義を行うこともあります。
見学当日は、校内の体育館で音楽コンサートが開催され、私たちも参加させていただき、皆で大いに盛り上がりました。

今回見学したのは『IET』プログラム内の、体を動かす活動、アート活動、教室内での活動です。
どの活動においても、子ども一人ひとりのニーズに合わせた支援と環境が整えられていると同時に、教員の豊かな表情からは活動を心から楽しんでいる様子が伝わり、その結果、子どもたちの楽しそうな姿に繋がっていると感じました。
また、『IET』プログラムは小学校1年生で卒業し、その後、各地域の公立学校へ進学します。卒業の際には、子どもたちが自分自身について記した絵本を一人一冊作成し、自身の障害や必要な支援について記述するという取り組みが行われています。

今回の実地研究を通して、子どもたちが安心できる環境でこそ学びが始まること、そしてここが誰もが多様性を実感できる場所であるということを改めて実感しました。

まだまだ書き足りないほど濃密な学びの日々であり、実地研究3日目も吸収することが多すぎるほどでした......。

海外教育実地研究 現地報告【その4】

2025年2月21日、実地研究3校目は、シュタイナー教育を実践している「Waldorf Academy」を訪問しました。
シュタイナー教育とは、ルドルフ・シュタイナーの提唱に基づく教育であり、子どもたちの自由な発達を大切にする学びの場です。
この学校には1歳半から中学2年生までの子どもたちが在籍しており、教育のアプローチは7年ごとの節目に応じて変化します。

この学校の大きな特徴は、テクノロジーを取り入れずに教育を行っていることです。
これは、「物事をまず自分で考える力を育てる」ことを重視し、子ども時代には手を使った活動を大切にするという考えからきています。
また、ゲーテの色彩理論に基づき、発達段階に応じて意図的に色を活用しているのも特徴的でした。校舎全体にその考えが反映され、温かみのある環境が整えられていました。

幼児クラスでは、各部屋にキッチンが備え付けられており、家具やおもちゃには木の素材が多く使用されていました。先生が指示を出すのではなく、歌を歌いながら活動を移行していく様子が印象的で、子どもたちは歌に合わせて自然と行動していました。先生が過度に介入せず、子どもが夢中になっていることを尊重する姿勢が感じられました。

学年が上がるにつれ、子どもたちは自分で何かを創り出す経験を重ね、主体性を育むことが重視されます。最終学年の中学2年生のクラスでは、4~5か月かけて自分でテーマを決め、発表会を行うという取り組みが行われていました。児童たちに話を聞く機会もあり、どのようなプロジェクトに取り組んでいるのかを知ることができました。

デイケア施設では、本学の卒業生であるかなざわ ゆうさんに案内していただきました。
教室ごとに異なる色彩が取り入れられており、家庭のような温かみを感じる空間が広がっていました。

校長先生のお話では、「子ども時間をいかに守るか」「安心・安全な環境をつくること」が何度も強調されていました。
シュタイナー教育では、子ども時代を大切にし、その時間を丁寧に育むことが教育の根幹となっています。さらに、特に心に残った言葉は、「子どもに真似されてもいい姿でいる大人であること」という言葉でした。
子どもは大人の姿を見て学ぶ存在であり、先生の在り方がクラスの雰囲気を大きく左右するという話に深く共感しました。

これまで訪問した2校と比べると、Waldorf Academyは家庭的な温かみを重視した教育環境が特徴的でした。

それぞれの学校が異なる教育理念を持ち、それぞれの良さがあることを実感しています。
毎日が新しい学びの連続であり、次に訪問するJICSではどのような教育の場に出会えるのか、今から楽しみです。

海外教育実地研究 現地報告【その5】

2025年2月24日から26日にかけて、Dr. Eric Jackman Institute of Child Study (JICS) を訪問し、海外の教育現場での視察と実践的な学びを深めました。
本研修を通じ、子ども主体の探究活動の意義や、教育現場での信頼関係の重要性を実感しました。

JICSは、トロント大学オンタリオ教育研究所(OISE)に所属する附属実験校であり、幼児教育から小学校教育までを対象に、研究と実践が統合された教育を行っています。「目の前にいる子どもに教育を」という理念のもと、すべての学年で探究的な学びが展開され、子どもたちは自ら問いを立て、調査や対話を通して理解を深めていきます。日常の活動の中でも、異文化交流の機会が大切にされ、自己表現や相互理解を促進する取り組みが行われています。

JICSの教育では、教師は単なる知識の提供者ではなく、学びの支援者として子どもたちと関わります。全学年で、子どもたちは自身の興味を出発点に自由に考え、言葉で表現し、他者と共有しながら学びを深めています。
例えば、「My Story」プロジェクトでは、自己を表現し、他者とのつながりを築く機会が設けられています。また、少人数での対話を通じて、子どもたちが主体的に学びを進められる環境が整っています。

最終日には、これまでの学びを振り返り、子どもとの対等な関係の大切さや、学びの主体性を尊重する教育の意義を再認識しました。JICSでは、すべての学年で、子どもが安心して学びに挑戦できる環境が整っており、教師と子どもの相互信頼がその基盤となっています。
この研修を通じて、私たちは教育における「探究する力」と「信頼関係の構築」の重要性を改めて認識しました。JICSで得た知見を、今後の学びや教育実践に活かしていきたいと考えています。

2週間にわたる海外教育実地研究を通して、私たちは多様な教育現場での実践を直接体験し、理論と実践を結びつける貴重な機会を得ました。異文化の教育環境に触れることで、子ども主体の学びや教師の役割、教育における信頼関係の重要性をより深く理解することができました。
研修での学びを振り返りながら、日本の教育にどのように活かしていけるかを考え続けていきたいと思います。

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