2025年度入学式 式辞
春の息吹が感じられるこの佳き日に、皆さんを神戸親和大学の学部と大学院に新たに迎えることができ、大変うれしく思います。ご入学、心よりおめでとうございます。また、ご家族、ご関係者の皆様にも、お慶びはひとしおのことと存じます。心からお祝い申し上げます。
今日、皆さんは新たな一歩を踏み出しました。この一歩は、自分の可能性を広げ、未来を切り拓く大きな出来事の始まりです。旅が始まるこの日だからこそ、皆さんにお伝えしたいことが2つあります。
まず一つ目は、大学は正解を求める場所ではないということです。また正解を教える場所でも正解を学ぶ場所でもありません。高校までの学びは、教えられたとしても、あるいは学んだとしても、「与えられた知識」を正解として吸収することが中心でした。けれども大学は、自分で問いを立てて自分で自分なりの答えを見つける場所です。すべてのことは、自分で責任を持って、自分の未来に対して答えを探ることにつながっています。講義、演習、ゼミ、実技や実習、部活動やサークル活動、ボランティア活動。その他にも、アルバイト、友だちとの楽しい時間など、これから皆さんの大学生活ではいろんな新しいことが始まります。けれどもそれらは全て、皆さん自身が、皆さん自身の人生に対して自分で問いを立てて、自分で答えを探すためにすることです。そもそも大学に来たということさえも、考えてみれば皆さん自身が最終的には決めたことです。言い方を変えると、今日を境にして皆さんは、自分で自分の生き方を決める自由のなかで生きていくということです。でもだからこそ、同時に皆さんは誰かが身代わりになってくれることはもう決してない、自分自身が全ての責任を自分自身でとらざるをえない大人でもあります。それが大学生です。
こんなふうに話し始めると、なんだかちょっと怖い気持ちになる人がいるかもしれません。でも、怖がることはありません。私たち教職員が、そのために全力で皆さんを支えるからです。また、自分責任で強く主体的に生きようとすることに対して、ひょっとすれば初心者の皆さんだからこそ、大学は皆さんが想像する以上に、実は失敗しても安全な場所と言って良い面があります。もちろん、例えば大学生をめぐる闇バイトの問題や、大麻等の薬物の問題などは、責任を自分自身が持つ大学生だからこそ厳しい処置は受けざるをえません。けれども、定期試験に失敗しても、日々の講義の中で発表がうまくいかなくても、あるいは人間関係で悩む時があっても、実は何回でもやり直せるし、誰もあまり気にしないのが大学です。大学では「失敗しないこと」を求めるのではなく、むしろ「失敗から学ぼうとする」皆さんを全力で支えようとします。なので、思い切ってこれまでできなかったことに挑戦してみてください。そして、これが二つ目に伝えたいことでもあります。
大学や大学院は挑戦の場です。全国に、世界に、そしてこれまでの自分自身に対して大いに挑んでみてください。国際文化、心理、教育、スポーツにそれぞれ専門は分かれますが、どれをとっても新しい出会いがいっぱいです。楽しい、面白いと思えることを見つけて、果敢に挑戦してみてください。また、高校までにやり残していること、できなかったこと、わからなかったこと、身につけられなかったことがその過程で出てきたら、それも挑戦の一つとして何回でもやり直してみてください。これまでの自分に挑戦するというのは、ある意味、とてもかっこいいものです。変化し続ける自分を、周りに見せることになるからです。できる可能性が50%しかない、というちょっと無理かもと思えることにこそ挑戦することをお勧めします。なぜなら、その時が、一番面白いからです。勝つか負けるかが五分五分のゲームは、一番ドキドキワクワクします。何回失敗しても、何回やり直しもいいわけなので、気にせずに挑戦することに夢中になってください。ただその時、おそらく後で振り返ってみれば、皆さんはびっくりするくらい成長しているはずです。大人の私たちからすると、とても羨ましく感じるそんな挑戦OKの旅の第一歩が、今日この日になっているということです。
大学は、そもそも偏差値でどれだけ高い大学に入ったかということに意味がある場所ではありません。多くの人は、大学の捉え方を勘違いしてしまいます。むしろ、入った後に何をするのか、どのような挑戦の旅を経験するのか、それこそが問われる場所です。神戸親和大学は、すでに2万人近くの卒業生たちに、このような意味ある場を提供し、本当に必要な力を育ててきた優れた大学です。この大学が培ってきた150年近くの伝統と革新の力は、必ず見えない力となって皆さんを支えてくれます。
ここで、学長の私の個人的なアドバイスとして、皆さんにそんな4年間や2年間の大学生活を送る上でのコツを一つだけお話ししたいと思います。それは、これから何かの「選択」をするときに、「どちらを選択した方が愛があるのだろうか」と考えて選択してほしいという、「愛」つまり「ラブドリブン」ということについてです。「ドリブン」という言葉は、何か変わらない大切なものをいつも中心にして行動や判断を導くことを言います。例えば、「データードリブン」と言えばデータを中心にいろんなことを決定していくこと、推し活を中心に自分の時間を組み立てている人がいたとすれば、それは「推し活ドリブン」ということになります。そこで、皆さんの大学生活を、「ラブドリブン」を合言葉に考えてみることを、大真面目に伝えたいというのがここで言いたいことです。
例えば、「今日の講義に休まず出るかどうか」「講義中に私語をしたり、スマホを見るかどうか」「レポートを早い時期から準備するかどうか」「アルバイトをするかどうか」「お父さん、お母さんに大学の成績のことを話すかどうか」「大学卒業後はどんな進路に進もうか」「自分らしい未来をどのように切り拓いていくのか」。こう言うときに、「ラブドリブン」で真剣に考えてみてほしいのです。「今日の講義に休まず出るかどうか」と言ったとき、多いのは「自分の利益」に基準を置いて選択する行動です。これは結果として出席した時も、あるいは逆にサボってしまったときにも、実は共通してみられる選択原理です。結局はその選択が自分を満足させるのかという「自分の利益」を基準に選ぶことには変わりがないからです。けれども「ラブ」と言う言葉は、そもそもは高校の倫理の授業で出てきた「アガペー」と言う言葉が一つのルーツになっています。「無償の」とか「自らを犠牲にして」と言った意味合い、つまり、人や社会への貢献、思いやり、共感といった内容を含んでいます。そうすると、選択の基準を「ラブ」にとると、自己中心的な選択ではなく、周囲への関心を持って行動することにつながります。「自分」から「他者」へと考える視点が変わる可能性が出てくるということです。つまり「講義中に私語をしたり、スマホを見るかどうか」と言う選択が、「自分の利益」からではなく、例えば他の友達にとってどうだろうか、とか、教えている先生にとってはどうだろうか、と言ったことを考える視点へと広がることになるのではないかということです。日常の生活の中で、普段考えもしなかった「ラブ」と言う言葉を判断の基準に置くことで、これまでの自分の価値観や判断が揺らいだり、あるいは考え直すきっかけを持つことにもつながると思います。これは、きっと皆さんの成長を促すことにもなると思います。「違いに触れ、対話することで、自分の世界が広がる」こと、つまりこの「ラブドリブン」の体験自体が、皆さんにとっては出会いの体験になるからです。ここで入学生の皆さんだけではなく、保護者・関係者の方々、そして教職員の皆様も、「ラブドリブン」と言う言葉についてどうお考えになられますか。この言葉を、今日の2025年度の神戸親和大学の入学式に出席している人だけで共有する、秘密の言葉にしてみませんか。ぜひ、入学生の皆さんを交えながら、保護者・関係者の方々、教職員の方々でも話し合ってみていただけると幸いです。
今、世界は、見通しが持ちにくい変化の激しい時代となっています。こんな社会を生きていくからこそ、皆さんには是非とも「強い主体性、新しい主体性」を育んでほしいと願っています。この具体的な内容については、是非とも、皆さんへの資料として用意されている「2025年度のカリキュラム改革について」を詳しく読んでみてください。そして、後ほどオリエンテーションでも連絡があると思いますが、必ず、資料の最後のページにあるアンケートURLから皆さんの声も聴かせてください。ただここで重要になるのは、自分で問いを立てて自分で答えを見つけることができること、あるいは他者と深く連携しつつも自分を見失わないこと、つまり英語で「私」という意味の言葉「アイ」を新しく育て直すということです。そうなのです。「ラブドリブン」の、あの日本語の「愛」と同じ発音なのです。偶然はしかしこれだけではありません。皆さんがこれから生きる社会を大きく変えているのは、人工知能などの高度な情報技術です。文系の大学でも、人工知能などに関わる知識や技術を学ぶことはもちろん重要なことです。ところでこの人工知能は英語では「アーティフィシャル・インテリジェンス」と言います。つまり、「AI」のことです。つまり、そうなのです。ここでもまた、これをローマ字読みすると、あのラブドリブンと同じ「愛」という発音が現れます。さらに、関西にある神戸親和大学の立場からすると、この「AI」は、「えー愛」、つまり日本語で言う「より素晴らしいラブ」のことを関西弁で「えー愛」と言っているように聞こえもします。今、世の中のキーワードは、「愛」という発話、これをパロールとも言いますが、パロールには「ラブドリブン」の原理が偶然にも重なり合っているのです。最後は、パロディという遊びの精神にご登場いただきましたが、教育の問題としてもよく取り上げられる「いじめ」や不登校の問題、心理学の知見を活かしてサポートされる必要のある人間関係の問題、国を超えて、あるいはスポーツを通して進められる事が望まれるダイバーシティ、つまり多様性と出会いの問題なども、通底するのは「愛」の問題なのかもしれません。とどのつまり、皆さんの大学と時代には、「愛」で「空気」を創ることが求められていると考えてみてはどうかということです。
そのようなことから「ともに学びともに育つ」と言う、他者や社会とともに成長することを理念とする本学だからこそ、あるいはAIに代表される高度なテクノロジーが駆使されるこれからの社会に生きる皆さんであるからこそ、さらには「新しい主体性」と言う自分を見失わず他者と協働して幸せを求めるために最も必要な資質を皆さんに身につけてほしいからこそ、「ラブドリブン」と言うことをぜひ記憶に留めて大学生活を送ってほしいと思っています。どうぞ、愛のある大学生活に、愛にあふれた有意義な大学生活を自ら拓き紡いでください。そして大学生活をとことん楽しく面白く過ごしてください。
私たちは、そんな皆さんの4年間を全力で支えていきます。「地域共創科目」や「副専攻制度」など、斬新なカリキュラムも皆さんの入学時からスタートします。大学を皆さんなりの答えを探す場として使い尽くしてください。ともに、素晴らしい4年間や2年間の旅となるように、みんなで「ラブドリブン」しましょう。改めて、大学生活のスタートラインに今日たたれたことを、心から喜び、私の式辞としたいと思います。
本日は、まことにおめでとうございます。
令和7年4月1日
神戸親和大学 学長 松田恵示