2022年度学位記・修了証書授与式 式辞
本日、ここにご来賓の皆様のご臨席のもと、第54回神戸親和女子大学学位記・修了証書授与式を挙行できますことは、本学関係者にとりましてこの上ない喜びであり、ご出席の皆様には厚く御礼を申し上げます。
本日は通学部生353名、大学院生17名、通信教育部生24名の方々が卒業、修了されます。晴れてこの日を迎えられた皆さん、ご卒業、ご修了おめでとうございます。神戸親和女子大学の教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。
また、ご来賓の皆様にはご多忙の中、学位記・修了証書授与式にご列席賜りましたことを厚く御礼申し上げます。
そして、これまでの長い間、卒業生、修了生の勉学を支えてこられました保護者、関係者の皆様におかれましては本日の式典を心待ちにしておられたことと存じます。保護者、関係者の皆様の本学へのこれまでのご支援を感謝いたしますとともに、ご卒業、ご修了を心よりお慶び申し上げます。本日の式典の様子はライブ配信をしております。ライブ配信をご覧いただいております皆様とも卒業生、修了生の旅立ちをご一緒にお祝いできれば幸いです。
3年前から始まった新型コロナウイルス感染症の拡大により、卒業生、修了生の皆さんの学生生活は一変いたしました。2020年春学期は大学キャンパスでの対面授業が急遽オンライン授業となり、その後も感染拡大時には対面授業とオンライン授業を併用し、課外活動などに制限が加えられました。皆さんは想像していた学生生活とは大きく異なる状況に戸惑われたことと思います。
しかし、皆さんは、オンライン授業、就職活動や採用試験の準備、論文の執筆など、様々な困難を乗り越えてこられました。私たち教職員は、皆さんが困難な時にも前向きに、最善を尽くして学業や行事に果敢に取り組んでこられた姿勢とその努力に心から敬意を表したいと思います。苦難の時は皆さんの心が強く鍛えられ、次に羽ばたくエネルギーを蓄える時でもあります。このコロナ禍の時期に皆さんが身につけた対応力と困難を乗り越える力は、今後の人生の中で必ず役に立つものと信じています。
私は本日、巣立っていく皆さんに2つの言葉を贈りたいと思います。
一つは入学宣誓式の時に皆さんに贈った「超えていけじぶん」という言葉を再び皆さんに贈ります。この言葉の背景には、親和学園の校祖友國晴子が遺した校訓「堅忍不抜」があります。困難に打ち勝つ力です。この4年間、世界は、我々は超えていかねばならない困難に数多く出会いました。2020年2月に始まった新型コロナウイルス感染症のパンデミック、そして2022年2月のロシアのウクライナ侵攻、2023年2月6日に発生したトルコ・シリア大地震など世界各地で多くの人命が失われ、今なお傷ついた人々への支援が滞っていると報道されています。
今後も戦争、対立、災害、貧困、疾病などの困難に対して、我々は世界の人々と手を携えながら、立ち向かっていかねばならないでしょう。現在、世界の不安定化は年々高まっており、先行きが非常に不透明な状況です。世界の平和を脅かす戦争や紛争の勃発、地球の温暖化などの気候変動の問題を抱えながら、我々は地球の環境を守りつつ、人々のQOLやウェルビーイングの向上を目指していかねばなりません。
この非常に難しい難問を解いていくためには、これまでの常識や既存の枠組みを超えた社会の新たな価値を創造していく必要があるのです。そのために世界の人々と人種、言葉、文化、価値観の違いなど様々な壁を超えて協力していく必要があります。皆さんは今回のコロナのパンデミックの経験により、世界を俯瞰する視野を手に入れることができたでしょう。世界のどこか遠くで起きたことが、自分たちのコミュニティにも同時に起こりうることをコロナ禍で実感として学んだと思います。
本学で学んだ知識、手に入れた知恵があれば、遠くのどこか、たとえばウクライナ、トルコ、シリアの子どもたちに起きていることにシンパシーを持って思いを馳せ、自分が住んでいる地域の身近な問題と重ねて考える、さらに世界の問題を我々の問題として考えることができるのです。
皆さんは今後も日ごろ会う身近な人々だけの世界に閉じこもらず、好奇心と勇気を持って世界の人々と緩やかにつながり、そのネットワークを広げて困難に立ち向かい、将来人々が安心して暮らすことのできる社会を築いていってください。
二つ目に皆さんに贈る言葉は「回り道を楽しむ」ということです。
大多数の皆さんは4月から社会という大海原に出航していきます。人生の航海は順調な凪の日ばかりではなく、嵐の日もあるでしょう。港に避難し、嵐が通り過ぎるのをじっと待たねばならない時もあります。目的地に向かって一直線に進んでいくことは、効率的で勇敢に見えますが、かえってかじ取りが危険な場合もあります。上手に危険を避け迂回し、良い波が来るのを待ち、回り道を楽しむくらいの余裕を持って進んでいってください。
先ほど申しました「超えていけじぶん」、つまり困難に立ち向かうには、まっすぐにぶつかっていくことだけが良策ではないのです。自分自身の限界に直面した時も同様です。嵐から逃げる、避ける、回り道をとることも立派な超えていき方なのです。その時に、「仕方がないから逃げた」のではなく、「自分が回り道を選んだのだ」という気持ちが、自分を救います。
ルーシー・モード・モンゴメリの名作「赤毛のアン」で主人公のアン・シャーリーは大学進学を断念して教師になるという道を選んだ時にこのように言っています。
「私の未来はまっすぐな一本道のように目の前にのびていたの。でも今、その道は曲がり角に来たの。曲がった向こうに何があるか分からないけど、きっと素晴らしい世界があるって信じている。・・・初めて見る新しい風景が広がっているかもしれない。見たことのないような美しいものに出会うかもしれない」。
もちろんアンはその後、教師として素晴らしい世界を見ることになったのですが、進むべき方向性を変更する時に、見事にポジティブな思考に切り替えています。
社会では皆さんも希望通りのまっすぐな道ではなく、あちこち遠回りしながら進んでいかざるを得ないと思います。目的地が変わってしまうことも多々あるでしょう。しかし、それぞれの回り道を好奇心を持って楽しみながら歩んでください。いつかきっと自分の行きたい場所にたどり着いていると思います。
皆さんには困難に打ち勝つ「超えていく力」と、「人生の回り道を楽しむ力」、両手に携えて社会の人々を幸せに、そして自分自身も幸せになって欲しいと心から願っています。
さて、今回の式典が神戸親和女子大学としての最後の学位記・修了証書授与式となります。親和学園のルーツとなる親和女学校は1887年に神戸元町に開校しました。校祖・友國晴子先生は明治時代、女性が教育を受けることがまだ一般的ではなかった時代に、女性が社会で活躍する時代が将来到来することを見通し、英語教育など先進的な教育を実践されました。その精神を継承し、親和女子大学は1966年昭和41年に開学しました。
本学は開学から半世紀を超え、2万人近い卒業生を社会に送り出しています。女性が男性と共に社会で活躍するために、そのリーダーシップの育成と能力の開発により、友國晴子の掲げた「社会で活躍する女性」の育成を女子大学という特別な環境の中で行うという目標はこれまでの本学の歴史の中で十分に実現してきたと言えます。
そして創立57周年を迎える2023年4月から本学は共学の大学となり、大学名を「神戸親和大学」とし、新たに船出いたします。開学以来受け継がれてきた本学の伝統を基盤にしつつ、社会の変化に対応し、性別、国籍、文化、価値観などを超えて、多様性に開かれた環境での教育を行い、社会の未来を創る大学として新たな歴史を刻んで参ります。
1966年から本日まで本学を卒業されました同窓生の皆様、保護者、関係者の皆様、教職員の皆様をはじめ神戸親和女子大学に関わってくださった全ての皆様のおかげで半世紀以上に渡り、本学は歩んで参ることができました。皆様の温かなお力添えに心より感謝申し上げ、本学は4月より新たなスタートを切ります。
新たな大学のシンボルロゴは「未来への羅針盤」をイメージしています。荒海を航海していく皆さんとともに伴走し、時には背中をそっと押す、そんな羅針盤でありたいという大学の思いが込められています。大学名は変わりますが、親和の精神、伝統を継承し、皆さんの母校はいつまでも皆さんと共にあります。
卒業生、修了生の皆さんはこれからそれぞれの場所で、人々が幸せを追求することができる社会の実現に力を尽くしてください。
先行きが見えない混沌とした時代こそ、皆さんの個性が輝く時代です。あなた独自の生き方を試すことが出来る時代なのです。本学で過ごした学生時代の思い出を胸に秘め、力強くそしてしなやかに、自分らしく、この時代を生きていってください。
皆さんが本学で得た学び、経験、教職員や友人とのつながりのすべてが、この先の皆さんの人生を支える大きな力となることを確信しています。
卒業、修了される皆さん一人ひとりが、私達教職員の誇りです。本日、この鈴蘭台キャンパスから皆さんを送り出しますが、いつの日か母校として皆さんが再び訪れてくださる日を教職員一同楽しみに待っています。
最後に、卒業生、修了生の皆さんの、そして本日ご列席いただいております全ての皆様の今後のご活躍、そしてご健勝を心より祈念し、私の式辞とさせていただきます。
令和5年3月21日
神戸親和女子大学 学長 三井知代