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2021年度学位記・修了証書授与式 学長式辞

 本日、ここにご来賓の皆様のご臨席のもと、令和3年度神戸親和女子大学学位記・修了証書授与式を挙行できますことは、本学関係者にとりましてこの上ない喜びであり、ご出席の皆様には厚く御礼を申し上げます。

 本日は通学部生400名、大学院生19名、通信教育部生30名の方々に学位記及び修了証書を午前、午後の部においてお渡しいたしました。晴れてこの日を迎えられた皆さんご卒業、ご修了おめでとうございます。神戸親和女子大学の教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。

 また、ご来賓の皆様にはご多忙の中、学位記・修了証書授与式にご出席賜りましたことを厚く御礼申し上げます。

 そして、これまでの長い間、卒業生、修了生の勉学を支えてこられました保護者、関係者の皆様におかれましては本日の学位記・修了証書授与式を心待ちにしておられたことと存じます。保護者の皆様の本学へのこれまでのご支援を心より感謝いたしますとともに、ご卒業、ご修了を心よりお慶び申し上げます。

 本来であれば卒業生、修了生の保護者、関係者の皆様には本会場にご列席いただくべきところではございますが、新型コロナウイルスの感染防止対策として、入場者数制限のため、本日はオンライン配信でご覧いただく形を取っております。皆様にはオンラインではございますが、卒業生、修了生の本日の旅立ちを見守って頂ければ幸いです。

 卒業生、修了生の皆さんにとり、2020年の春からの大学生活は一変いたしました。特に2020年春学期は大学キャンパスでの対面授業が急遽オンライン授業となり、皆さんは大いに戸惑われたことと思います。しかし、オンライン授業、就職活動や採用試験の準備、卒業論文、修士論文の作成など皆さんはこれまで体験したことのないコロナ禍での生活の中で、様々な困難を乗り越え努力を重ねてこられました。私たち教職員は、皆さんが困難な時にも前向きに、最善を尽くして授業や行事に取り組んでこられた姿勢とその努力に心から敬意を表したいと思います。

 さて、2年前からの新型コロナウイルス感染症のパンデミック、そして最近ではロシアのウクライナ侵攻など、世界の情勢は不安定で将来の予測が難しい時代に皆さんは社会に船出していきます。今後社会情勢の変化に伴い、皆さんはどのような職種においても今まで以上に多様な考え方や価値観を持った人々と協力して働くことが必要になってくると思います。そこで必要な力が「コミュニケーション力」です。

 ちょうど4年前皆さんの入学宣誓式で、私は皆さんに本学で身につけて頂きたい力の一つに国や人種、社会、世代、性別など多くの境界を超えていく力として「コミュニケーション力」を挙げました。コミュニケーション力とは「自分とは全く異なる価値観や意見を持つ人々がいるという多様性への理解と尊敬の念、そして理解しあおうという意欲が重要である」と申し上げました。4年後の今こそ私は「コミュニケーション力」について、今回は「対話」の重要性について皆さんにお話したいと思います。

 日本の哲学者である鷲田清一氏は「対話の可能性」という文章で対話についてこのように述べています。

 『人と人とのあいだには、性と性とのあいだには、人と人以外の生きもののあいだには、どれほど声を、身ぶりを尽くしても、伝わらないことがある。思いとは違うことが伝わってしまうこともある。〈対話〉はそのように共通の足場を持たない者のあいだで、たがいに分かり合おうとして試みられる。その時、理解しあえるはずだという前提に立てば、理解しえずに終わったとき、「ともにいられる」場所は閉じられる。けれども、理解しえなくてあたりまえだという前提に立てば、「ともにいられる」場所はもう少し開かれる。

 対話は、他人と同じ考え、同じ気持ちになるために試みられるのではない。語りあえば語りあうほど他人と自分との違いがより微細に分かるようになること、それが対話だ。「分かり合えない」「伝わらない」という戸惑いや痛みから出発すること、それは不可解なものに身を開くことなのだ。』

 鷲田氏は対話により他者を理解するということは、考えや気持ちの一致のためではなく、自分と他者の考え方や感じ方が違うのだという理解から始まること、自己と他者の間に隔たりがあるのだという認識が出発点であると指摘しています。厳密にいえば、人は他者と全く同じ考え、同じ気持ちにはなり得ないのです。どれほど親しくとも、考え方や気持ちに隔たりが生じるのです。このことは皆さんも日々実感されておられることだと思います。隔たりがあるからこそ、その隙間に対話の可能性が拡がります。

 「私はあなたの考えがわからない」という理由で即座に相手を否定するのではなく、自分には不可解な了解しがたい他者の想いを、理解しようと試みる姿勢が何よりも重要になります。自分が理解できない不可解なものを遠ざけず、「不可解なものに身を開く、つまり心を開くこと」により、本来の意味での対話が可能となるのです。

 社会人として皆さんが乗り越えていかねばならない課題の一つが対人関係です。「自分の想いを理解してもらえない」、「相手の考えを理解できない」といった状況のときに絶望することなく、また相手に自分の考えを一方的に押し付けるのではなく、「分からない」からこそ「分かりたい」のだという姿勢で心を開いて、辛抱強く対話を続けてください。相手の気持ちを理解しようとすることは、相手に対する自分の気持ちの理解、そして自分自身への理解につながります。繰り返す対話のなかで、私とあなたの想いや考えが異なりながらも共に落ち着く新たな地平を見つけることができた時、皆さんは「理解し合えた」ことを実感すると思います。

 対話によって自分とは異なる意見や価値観を持つ他者を尊重するということは、他者の主体性を尊重することであり、そのようなふるまいの中に皆さんの主体性が息づいていくのです。

 卒業生、修了生の皆さんはこれからの新たな世界を様々な人々と協働し、切り拓いていってください。それぞれの場所で、人々が幸せを追求することができる社会の実現に力を尽くしてください。

 先行きが見えない混沌とした時代こそ、皆さんの個性が輝く時代です。あなた独自の生き方を試すことが出来る時代なのです。本学で過ごした学生時代の思い出を胸に秘め、力強くそしてしなやかに、自分らしく、この時代を生きていってください。

 皆さんが本学で得た学び、経験、教職員や友人とのつながりのすべてが、この先の皆さんの人生を支える大きな力となることを確信しています。

 卒業、修了される皆さん一人ひとりが、私達教職員の誇りです。本日、この鈴蘭台キャンパスから皆さんを送り出しますが、いつの日か母校として皆さんが再び訪れてくださる日を教職員一同楽しみに待っています。

 最後に、皆さんの今後のご活躍、そしてご健康を心より祈念し、私の式辞とさせていただきます。

令和4年3月21日

神戸親和女子大学 学長 三井知代