大学案内

2023年度卒業式・大学院修了式 式辞

 本日、ここにご来賓の皆様のご臨席のもと、第55回神戸親和大学卒業式、大学院修了式を挙行できますことは、本学関係者にとりましてこの上ない喜びであり、ご出席の皆様には厚く御礼申し上げます。

 本日は通学部生385名、大学院生13名、通信教育部生19名の方々が卒業、修了されます。晴れてこの日を迎えられた皆さん、ご卒業、ご修了おめでとうございます。神戸親和大学の教職員を代表して、心よりお祝い申し上げます。

 また、ご来賓の皆様にはご多忙の中、卒業式、大学院修了式にご列席賜りましたことを厚く御礼申し上げます。

 そして、これまでの長い間、卒業生、修了生の勉学を支えてこられました保護者、関係者の皆様におかれましては本日の式典を心待ちにしておられたことと存じます。保護者、関係者の皆様の本学へのこれまでのご支援を感謝いたしますとともに、ご卒業、ご修了を心よりお慶び申し上げます。

  私は、本日本学を巣立っていかれる皆さんに、二つの言葉についてお話したいと思います。それは「諦める」という言葉、そして「しなやかさ」です。
 皆さんの本学での学びのスタートは決して順調ではありませんでした。特に2020年4月からの学部生の皆さんは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックで世界中が混乱している最中での学生生活のスタートでした。4月1日の入学式は中止となり、春学期の講義はオンラインで4月27日からの開始となりました。大学キャンパスが閉鎖される中、新入生の皆さんは教職員や同級生とキャンパスで出会うことなく、オンライン授業の開始に不安を抱かれた方も多かったと思います。
 その後、感染状況に合わせて対面授業とオンライン授業の併用の時期を経て、対面授業を中心としたカリキュラムに移行していきました。このような学びの形の変化を教職員は心配していたのですが、1年生の皆さんに10月に実施した「アンケート調査」では「世界や地域、自国民が直面する問題について理解する能力」、「異文化の人々に関する知識」、そして「物事を批判的に考える力」が向上したと認識している学生の割合が前年度よりも増えているという結果が出たのです。私たちは皆さんの回答に胸が熱くなりました。
 オンライン授業が始まった当初、本学教員からオンライン授業の目的についてこのようなメッセージを皆さんに贈りました。「本学の教員は『対面授業ができないから』といった消極的な気持ちではなく『新たな学びの形をぜひ手に入れてもらいたい』という熱い思いに満ちています。学生の皆さんにはICT活用の実践力や自ら学ぶ力を高めるチャンスだと捉えて前向きに頑張ってもらいたい」。
 このような教職員の気持ちに応えるように、皆さんは困難な時にも学びを深め、世界や社会が直面している問題を理解しようとし、その能力の向上を自分自身で認めていました。コロナ禍という抗いようのない運命を皆さんが受け入れ、その状況下でベストを尽くした学びの姿勢は非常に尊いものであると私は思います。
 皆さんのこれからの人生において、今回のような困難な時、逆境と感じる時を迎えることがあるかもしれません。どうしようもない運命、逆境をとりあえず、受け入れる。そしてそのような状況の中で自分なりのベストを尽くすことは、困難な時を乗り越えていく生き方として非常に大切だと感じています。
 その際、皆さんは大切なものや、自分が抱いている希望を諦めなければならない時が来るかもしれません。皆さんは、1年次当初は「キャンパスでの友人との交流」「行事」「課外活動」など思い描いていた大学生活で様々なことを諦めねばならなかったと思います。「あきらめる」という言葉は、元々は「事情、原因などを明らかにする」ことに由来していると言われています。
 人は何かを諦めきれないと苦しんでいる時に、自分はどうしてそのことに執着しているのか、自分はそこで何をしたいのかなど、自らの思いや考えを明らかにすることによって、自分がしがみついていた考えや価値観からふっと自由になり、「諦めきれないもの」を手放すことができるようになるのではないでしょうか。
 今回のコロナ禍で私たちは逆境の乗り越え方を、やり過ごし方を学びました。どうしようもない運命、逆境をとりあえず、受け入れる。そしてそのような状況の中で自分なりのベストを尽くす。勿論、何かを最後まで諦めずに追求することも、大切なことは言うまでもありません。しかし、大きな流れに身を任せ、自分自身を見つめ、自分自身の思いを「明らかにしながら」何かを「諦めて」、しがみついているものを手放し、うまく流されていくのも一つの生き方ではないかと思います。自分自身の思いをしっかりと「明らかに」しておけば、今は自分の目指すところとは異なったところを流れていても、いつかきっと自分の「行きたいところ」に流れ着くのではないでしょうか。
 その時に私たちの心を支えてくれるのが、「何とかなる」、「私はできる、大丈夫」といった楽観性と自分自身への信頼です。そのような心持ちは、一朝一夕に身につくものではないのではありません。しかし、人生の様々な流れに翻弄されながらもボートを漕いでいく経験を積んでいくなかで、皆さんはその両手に「楽観性」と「自分への信頼」というオールを手に入れることが可能となります。
 しかしあまりにも辛い時には、その濁流の辛さや怖さを見つめ過ぎずに、あえて上を向き、辛いことにふたをして何とかやり過ごしつつ、日々を生きていくことも大事であることを心に留めておいてください。
 皆さんにお話ししたい二つ目の言葉は「しなやかさ」です。柔軟性、打たれ強さ、回復力、適応力とも言えるでしょう。
 コロナ禍だけではなく、ここ数年に渡り、私達の社会は、紛争、戦争、自然災害など様々な困難に直面し、課題の解決を迫られています。このような社会を少しでも平和で、生きやすい社会に変えていくためには、人々の中に「しなやかな強さ」がますます必要になっていくのではないかと私は感じています。力と力のぶつかり合いを避け、対話を進めていく、困っている人、傷ついている人や場をさりげなく支える、課題解決のために自分の立ち位置を理解し、集団がうまく機能するように働く。これらはすべて、私が本学の学生の皆さんの中に感じる「しなやかさ」の一例です。私は学生の皆さんから「しなやかな強さ」を学びました。
 例えば、本学は日本OECD共同研究に参加しており、ある学生たちはOECDの学生グループの一員として海外の学生と共に活動をし、未来の教育について世界に発信をしています。国際的な活動を気負いなく自然体でこなし、行動力に溢れています。例えばウクライナの子どもたちに折り紙を折り方のガイドと共に送っていました。
 また、本学は2023年4月より共学へ移行しました。在学生の皆さんは、女子大学から共学の大学へとその環境の変化に非常に戸惑ったと思うのですが、私達が行ったインタビューでは、「少数派の男子学生が居心地が悪くならないような配慮が必要」という男子学生を気遣う意見や、「授業で両性による様々な討論が深まっていく」といった前向きな意見がありました。相手を気遣う、あるいは客観的な視点から物事を考える学生の様子、その懐の深さに私は感慨を覚えました。本学の学生の「しなやかさ」は、困難な時、変化の時により一層輝き、「しなやかな強さ」として大学の場を支えていたと思います。ここに「親和の学生らしさ」が現れているように私は感じています。校祖友國晴子先生が定めた校訓の「堅忍不抜」という言葉はどのような辛いことがあっても意志や信念を貫くという意味ですが、親和の学生の皆さんはそのような強い本質を柔らかな温かさで包んでいる印象です。
 皆さんのその「しなやかな強さ」をどうぞこれからも大切に身にまとい、この混沌とした社会を少しでも生きやすい、平和な社会へと変えていってください。
 今日、私は皆さんにお伝えしたかったことは「諦めること」「諦められないこと」のはざまで自分の中で「明らかになること」を見つめながら、しなやかに強く、生きていってくださいということです。
   私は、大学時代のゼミの指導教官に別れの時に3つの言葉をかけて頂きました。
 「あなたならできる」
 「何とかなる」
 「思いきりやってきなさい」
 卒業以降何十年もこの言葉に励まされ、今なお助けられています。
相手・そして自分への信頼、楽観性、そして背中をポンと押す言葉。これだけの言葉で人は十分、励まされ生きていけるのです。
私もみなさんに同じ言葉を贈りたいと思います。
 「あなたならできる」
 「何とかなる」
 「思いきりやってきなさい」

 先行きが見えない混沌とした時代こそ、皆さんの個性が輝く時代です。困難を乗り越えることによって、あなた独自の生き方を試すことが出来る時代なのです。本学で身につけた様々な力を発揮し、力強くそしてしなやかに、自分らしく、この時代を生きていってください。

 皆さんが本学で得た学び、経験、教職員や友人とのつながりのすべてが、この先の皆さんの人生を支える大きな力となることを確信しています。

 卒業、修了される皆さん一人ひとりが、私達教職員の誇りです。本日、この鈴蘭台キャンパスから皆さんを送り出しますが、いつの日か母校として皆さんが再び訪れてくださる日を教職員一同楽しみに待っています。

 最後に、卒業生、修了生の皆さんの、そして本日ご列席いただいております全ての皆様の今後のご活躍、そしてご健勝を心より祈念し、私の式辞とさせていただきます。

令和6年3月20日

神戸親和大学 学長 三井知代