学長メッセージ

「超えていけ、じぶん。」
に込められた思いとは?

神戸親和女子大学学長 三井知代困難や逆境の中でもしなやかに生き抜く

神戸女子親和大学は2021年、創立55周年を迎えます。前身となる親和女学校は1887年に開校後、一時的に閉校になったのですが、明治の時代に「女性が教育を受けることの重要性」をひしひしと感じられた校祖・友國晴子先生が情熱を注がれて、1892年に再び開校に至りました。
校祖の思いを伝える校訓が「誠実・堅忍不抜・忠恕温和」です。
「誠実」は、嘘偽りのないまことの心。「忠恕温和」は、自分の良心に誠実である「忠」と、他者に対する思いやりの心「恕」から成る言葉です。「堅忍不抜」は、耐え忍ぶという意味ですが、ただじっと下を向いて我慢するのではなく、強い意志を持ち、どんなことがあっても揺るがないイメージです。
例えば、台風でなぎ倒される木を想像してみてください。大木の街路樹は倒壊すると再生できませんが、竹は苦難をしなやかに受け止めて横に倒れ、天気の回復とともに再び立ち上がります。竹のようにしなやかに生き抜く力、心理学や精神医学でいうレジリエンス(困難や逆境の中にあっても心が折れることなく柔軟に生き延びる力)を表しています。
困難や逆境の中でもしなやかに生き抜く力を育むこと。本学は開校当初からそのような思いで、女性をエンパワメント(勇気づけながら個人が持っている潜在能力を引き出す)する教育を行ってきた大学です。校訓を平易な言葉でいうと「誠実に、くじけない強い意志をもって、自分にも他人にも思いやりをもって生きてください」ということですが、これが本学の核を成す精神となっており、校風や学生たちの姿にも感じていただけると思います。

超えていくべき様々な課題がある

現在は、女性がますます活躍する社会であり、またそれが期待される社会に向かっています。とはいえ男女共同参画が完全に実現しているわけではありません。世界経済フォーラムが2021年3月に発表した「ジェンダー・ギャップ指数2021」において、日本の順位は156か国中120位。これは経済・教育・政治・健康の4つの分野における男女間の格差を表すものですが、主要7カ国(G7)の中で最も低いものとなっています。このような社会では、女性が超えていかなければならない課題や困難が多々あるだろうと思います。社会に出てから、戸惑う事柄に直面することが少なくないと想像します。
このような社会を生き抜くには、「自分はどういうことができるか」「どういう役割を担っていけるか」といった核となるものを、学生時代にしっかりと、一人ひとりの中に形成する必要があると考えています。

自信をもって次のステージへ進む

そこで本学では2019年にSHINWA VISION2030を打ち出し、「超えていけ、じぶん。」の合言葉とともに、将来に向けて身につけてもらいたい3つの「超えていく力」を明確にしました。
3つの「超えていく力」の1つ目は「課題解決力」です。現在は様々な課題解決に否応なく向き合っていかなければならず、「課題解決力」を高めるには複眼的・鳥瞰的なものの見方を身につける必要があります。2つ目は、多様な人とつながっていくための「コミュニケーション力」。国・文化・人種・社会・宗教・性別などの境界を超え、自分とは異なる行動規範や価値観を理解するには、理解しようとする意欲や好奇心、尊敬の気持ちが大切です。「いろいろな人がいて多様な意見や価値観がある。そのことが何物にも代えがたい貴重なものである」ことを理解し、ともに協力して課題解決することを学んでほしいと思います。3つ目は、自分の限界や壁にぶつかったときに前を見て立ち上がる「自分の限界を超える力」。竹のように柔軟に逆風を受け止めて生き延びるレジリエンスの力です。
遠慮をしたり自信がなかったりして、力があるのに踏み出せない女子学生は少なくありません。だからこそ「自信をもって次のステージに進みなさい」と何度でも背中を押すことが大事だと考えています。「超えていけ、じぶん。」はそのための合言葉。本学ではこの言葉が学生にも教員にも行き渡っており、様々なシーンで自分や相手を励ましながら、自信につながる経験を積み重ねています。

循環型学習・ロールモデル・相互扶助

3つの「超えていく力」は本学のさまざまな学びを通して養っていきます。
特徴的な学びとして、学内で知識を養うオンキャンパスと学外で実践的に学ぶオフキャンパスの融合があります。実習・研修・ボランティアといった様々な活動の中で問題意識を醸成し、その問題へのアプローチとして原理や理論を座学で学ぶというスムーズな循環により、課題解決力を高めていきます。
また、1年から4年まで少人数クラスで行うゼミでは、ディスカッションを多く取り入れていますので、互いの意見を尊重しつつ、意見が違う場合にどう調整するかなど、具体的にコミュニケーション力を磨いていけます。
さらに、新入生が上級生とつながる機会として、新入生対象のオリエンテーション『親和行事』があります。宿泊を伴う内容で、上級生が企画から実施まで様々な工夫を凝らし、学生だけで準備を進めています。上級生にとってはコミュニケーション力やリーダーシップを培う場、新入生にとっては「自分もあんなふうになりたい」と思える身近なロールモデルとの出会いの場になっています。
本学は「先生になるなら、親和!」と言われる教員採用の実績がありますが、それを支えるのが、学生による自主勉強の伝統です。励まし合って朝から夜まで勉強し、「一緒に壁を超えよう」とする相互扶助の姿を見ることができます。

SDGsを推進、創立55周年記念事業

学生一人ひとりをエンパワーメントしながら、3つの「超えていく力」を有した学生を育てること。それは次世代を担う女性を育成し、持続可能な新しい社会を切り開くことにつながります。SDGsの目標達成に向け、女子大学が果たす役割は今こそ大きいと考えています。
創立55周年記念事業では、「SDGs推進プロジェクト」として、地域や企業、現場のプロフェッショナルと連携した事業を展開します。
まず、「子ども成長支援事業」として、地域のこどもを対象としたスポーツ教室、本学内にある子育て支援ひろば『すくすく』や北区役所内にオープンした『おやこふらっとひろば北(通称にじっこ)』での子育て支援事業、スポーツ活動などを行います。それから、「次世代の教育振興事業(育児教育啓発事業)」として、幼稚園や保育園で働く先生方による『親和保育者養成塾』や、幼児教育リカレント講座などを実施します。さらに、「SHINWA SDGs『しあわせ』『おしゃれ』推進事業」として、フェリシモと連携し「先生がしあわせに働くことができる服」を考えるプロジェクトや、学生が居心地良く過ごせるキャンパスに向けて取り組む、学内美化プロジェクトなどを実施していきます。

「超えていけ、じぶん。」を生涯のエールに

2021年度からはパソコンを必携化し、授業内外においてデジタル化を進めています。文系の学生こそ情報の知識が必要と考え、2022年には文学部国際文化学科に「情報コミュニケーションコース」を新設。情報リテラシーや情報運用知識、WEBデザインなどを学び、情報分野で活躍できる人材を育成します。
先が見えない時代を生き抜くには、自ら学び続ける“エンジン”を身につけて、自分がどう生きていきたいか、自分自身で選択していくしかありません。生涯、「超えていけ、じぶん。」の合言葉とともに、強く、そしてしなやかに人生を切り開いていただきたいと思います。
最後に、若い人は誰もが可能性のつぼみをもっているということをお伝えしたいと思います。そのつぼみは今はまだ硬くて、成長の速度は人それぞれに違っても、膨らみ開く特別な時期(ブルーミング)を必ず迎えます。大学時代はそのブルーミングの時にあたります。花開く力を信頼し、ぜひ保護者の皆様と一緒に、見守らせていただきたいと願っております。